目を覚ますと、川のほとりに横になっていた。

「ここは……」

身を起こし、あたりを見回すが、横に流れる大きな川以外は、何も無い。

オレは主人格のサレンダーにより、闇に葬られたはずだ。
ところがオレが今いるここは、そんな死の闇が支配する世界とは程遠い。
空を見ると、太陽の光が差している。

「どこに迷いこんじまったんだ、オレは」

まさかここが天国、なんてことはないだろう。
邪悪な心そのもののオレが行くようなところではない……。


「どうかしましたか?」

ふと、頭上から声が降ってきた。
……考え事をしていたせいで、人の気配に気付くことができなかったのか。
まあ、敵対する意思はないようだから、問題ない。

オレは立ち上がって、声の主を見た。いたって普通の女だ。
服も、どこかの街にいそうな格好をしている。
オレはますます混乱した。ここは……現実世界のどこかなのか?

「もしかして、ここがどこか考えてますか?」

女がオレの顔を見てそう言った。
こいつの言動から察するに、ここがどんな世界なのか知っているようだな。
オレのように気付いたらここにいた……というわけではなさそうだ。

「フン。知っているなら、是非とも教えてもらいたいねぇ」

オレがそう言うと、女は待ってましたとばかりに、口を開いた。

「ここは、冥界ですよ」

「冥界……ねぇ」

ということは、やはりあの世なワケだ。
現世にいた時に見聞きした冥界とはまったく違うが。

「現世で言われている地獄とか天国とか、そういうのはないんですよ。死は平等ですからね……」

そして女はつらつらと頼んでもいないのにこの世界のことについて説明をはじめた。
オレはここがどこなのかが知りたいだけだったので、その他の事については聞き流すことにした。
歴史やら仕組みやらに興味はない。
説明好きなのかなんなのか知らないが、また聞けば喜んで教えてくれるだろう……。

そんなことを思っていると女が、ふう、と息をついた。どうやら説明は終わったようだ。

「あ。そういえば、自己紹介がまだでしたね。わたしは名前といいます。あなたは?」

……やっとこの世界の説明が終わったと思ったら、次は自己紹介か。
こいつは喋りっぱなしで疲れないのか?
何もしていないのに、こっちが逆に疲労を覚える……。

「マリクだ」

「マリクさんですか。じゃあこれから宜しくお願いしますね!」

なんて言いながらオレに手を差し出した。
のんきな奴だ。ここは一つ、オレの前に手を差し出したことを後悔させてやろう。
ついでにながぁい話を聞かせてくれたお礼だ……。

「ああ。ヨロシクなぁ」

オレは名前の手の骨を折る勢いで強く握った。

……だが。

「マリクさんって……情熱的な方なんですね!」

結果、変に誤解されてしまった。
まったく意味がわからない。どんなおめでたい頭をしているんだ。

ため息のひとつでもつきたい気分になりながら、オレは名前の手を離した。

これから、オレはここで過ごさなければいけないのか。
……頭が痛い。