「オレはこのモンスターを攻撃表示だぜい! そして名前のモンスターとバトル! 撃破して、ターンエンド!」 「やられちゃった……。うーん……」 わたしはモクバくんとマジック&ウィザーズをしている。 昨日、考え抜いて自分のデッキを作ったから、一度試してみたくなってモクバくんに相手を頼んだ。 モクバくんが出してきた強力なモンスターを前に、わたしは手札のカードたちを見た。 打つ手は……なさそう。 デッキからカードをドローし、手札に加える。 このモンスターじゃ、倒せない……。 「わたしは守備表示でモンスターを召喚して、ターンエンド」 とりあえず、守備でライフポイントを守らないと……。 「そんなモンスターじゃダメダメだね。撃破!」 モクバくんのモンスターがわたしの守備モンスターをあっという間に倒した。 そして、名前のターンだよ、とモクバくんは意地悪そうに言った。 ライフポイントを守るには、新たな守備モンスターか、強いモンスターを出さなければならない。 「カードドロー。……守備表示」 強いモンスターカードは来ない。 ……完全に防戦一方になってしまった。 「なにをしているんだ?」 「あ、兄サマ!」 会議が終わったのか、瀬人くんが部屋に来た。 瀬人くんはわたしとモクバくんの近くまで来て、机上で繰り広げられているゲームを見た。 「マジック&ウィザーズか。どちらが勝っている?」 「そりゃあ兄サマ、オレにきまってるぜい!」 モクバくんが得意げにそう言って、胸をはった。 そんな嬉しそうなモクバくんとは反対に、わたしは重いため息をついて俯いた。 「打つ手がなくて……」 自分の手札のカードたちが目に入る。 何も出来ない悔しさと不甲斐なさから、ぎゅっと手札を持つ手に力が入った。 「名前。手札を見せてみろ」 急に耳元で瀬人くんの声が聞こえて、わたしは驚いて肩を震わせた。 その肩には、いつの間にか瀬人くんの手が乗っている。 「瀬人くん……?」 そっと横を見ると、瀬人くんの横顔が至近距離にあって、わたしは途端に顔に熱が集まっていくのを感じた。 「……カード同士の相性が悪いな」 瀬人くんはそう言って、後ろに身を引いた。 「デッキを見せてもらうぞ」 言うがはやいか、モクバくんとの勝負の途中だけど、瀬人くんはわたしのデッキに目を通し始めた。 「名前のデッキは、魔法カードが少ないな。 もっとモンスターとの相性を考えつつ魔法カードを増やして、尖らせた方がいい」 瀬人くんはデッキを机の上に戻しながら、アドバイスをしてくれた。 「ありがとう。瀬人くん」 手札で赤くなった顔を隠しつつ瀬人くんにお礼を言う。 数分前の悲しい気持ちはどこへやらで、わたしは幸せで緩む頬をなんとか引き締めた。 「それはそうと、モクバ。明日の仕事の件だが、お前に任せることにした」 瀬人くんは思い出したように、それまで机に頬杖をついて、 わたしと瀬人くんとのやりとりを聞いていたモクバくんにそう告げた。 「わかったよ兄サマ。名前、この勝負の決着は預けておくぜい!」 その言葉を最後に、カードを片付けた後、モクバくんは明日の準備のために部屋を出て行った。 瀬人くんはそれを見届けると、向かい側の、先ほどまでモクバくんが座っていた椅子に座り、 自分のデッキを取り出した。 「名前。オレがマジック&ウィザーズの手解きをしてやる。 勝利のためにはデッキの強さはもちろん、プレイングも重要な要素の一つだからな」 瀬人くんがわたしのために時間を割いて教えてくれるのに断る理由はない。 それに、瀬人くんと過ごす時間が増えるのは嬉しかった。 「……お願いします」 わたしのその一言に瀬人くんは口元に笑みを浮かべた。 「じゃあ、始めようか。 マジック&ウィザーズ──決闘」