今日は1年の時に仲良くなった御伽くんのお父さんのお店がオープンする日だ。 御伽くんから詳しい話を聞くと、御伽くんが作ったドラゴン・ダイス&ダンジョンズ、 通称D・D・Dというゲームが売り出されるらしい。 それはお店ができてから、一部のゲーム好きな人たちの間で話題になっている。 御伽くんってすごい人だったんだな。 お店の前で大々的に宣伝していたので、相当面白いゲームなんだろう! とわくわくしていると、 御伽くんが嬉しい申し出をしてきた。 「名前さんがよかったらの話だけど、開店前に僕とD・D・Dで遊ばない?」 ゲームが好きなわたしは当然、二つ返事で了承した。 *** 「ここがブラック・クラウンか……。えーと、御伽くんは……」 「名前さん」 開店一時間前だというのに、すごい行列だ。 御伽くんを探すためにきょろきょろと辺りを見回していると、横から声がかかった。 「開店前なのにすごい行列だね」 「そうだね。さすがに正面は無理だから、裏口から入ろうか」 「うん」 御伽くんに連れられて、お店の裏口から中に入る。 開店したら人でいっぱいになるであろう空間に、二人きりというのは、なんだか変な感じだ。 店内はたくさんのゲームがあって、見ているだけでも楽しい。 「奥のゲームスペースに行こうか」 ひとしきり店内を見た後、御伽くんに促され、店の奥にあるフィールドで御伽くんとD・D・Dをやった。 「名前さんのライフはこの攻撃で0だね」 「あー……」 予想通り、というか。 結局手も足も出ず、御伽くんに負けてしまった。 「ちょっとは手加減してくれてもいいのに」 「あはは。ごめん、名前さん」 「でも、楽しかったよ! 今日はありがとう、御伽くん」 「こちらこそ」 使ったダイスの片付けをして表に戻ってくると、さっきよりも人が多くなったのが外から聞こえる声でわかった。 壁にかけられた時計を見ると、開店30分前になっている。 「僕は父さんと少し話してくるから、その間、適当に見てて」 「うん」 御伽くんはそう言ってエレベーターで上にいってしまった。 「なんか喉渇いちゃった」 ゲームの勝負の緊張と、御伽くんと二人きりという緊張で、すっかり喉はカラカラだった。 自販機の前に来て、適当なジュースを買う。 「あ、そういえば遊ばせてもらったお礼、なにも持ってこなかったな……」 御伽くんと遊ぶことしか頭になくて、すっかり忘れてた。 とりあえず、今日のところは缶ジュースで勘弁してもらおう……。 お金を入れてボタンを押し、取り出し口に落ちてきた缶を取る。 ひんやりしていて、気持ちいい冷たさ。 自分の分も持ってるから、少し冷たすぎるけど……。 「名前さん」 そんなことを考えていると、グッドタイミングで御伽くんが戻ってきた。 「そういえば、お礼してなかったから、これ」 わたしはさっき買った缶ジュースを御伽くんの前に出した。 「後日またちゃんとしたお礼もってくるから!」 「そんなに気を回さなくていいのに。それに、僕は名前さんと遊べただけで充分だよ」 「でも、一番乗りで遊ばせてもらったから……。あれ」 そんな会話をしていると、ふと、御伽くんの顔に二本、みみず腫れができているのに気付いた。 別れたときはなかった……はず。 「どうしたの?」 わたしがじーっと御伽くんの顔を見ているので、御伽くんは怪訝そうに顔をかしげた。 「ううん。やっぱりかっこいいなーって思って」 なにか、聞いちゃいけないような気がして、適当にごまかす。 そのあと持っていた缶ジュースを御伽くんの腫れた頬に押し付けた。 「うわっ」 御伽くんは缶ジュースの冷たさに少し驚いたようだった。 「じゃー、もう開店時間だから帰るね!」 缶ジュースを御伽くんに渡して、何か言われる前に裏口からお店を出る。 帰るついでに正面入り口の方を見てみると、ちょうど11時になったようで、 人がこぞって中へ入っていくのが見えた。 「さーて、お礼、なにがいいかな?」 御伽くんの喜びそうなものってなんだろう、と思いながらわたしはお店を後にした。