薄暗いバトルシップの中を歩く。
すでに消灯後の船内は闇がすべてを覆っている。


少し前に、オレの主人格がバクラと手を組んで決闘を挑んできたが……無論返り討ちだ。


今度こそ、邪魔な存在を消す……。
あいつが生きていてもらっては困るんでねぇ。
また心の中に幽閉されるのは真っ平だ。


リシドのいる部屋まであと少しというところで、誰かが廊下の壁に寄りかかっているのを認識した。

次なる闇の生贄か……、それとも……。

そいつの近くまで来ると、当然、声をかけられた。


「マリク」

声をかけられて初めてオレはそいつの姿を目で確認した。

……こいつは確か、グールズの一員だったな。
そういえば、主人格サマがやけに気にかけていたなぁ。
名前は……名前、だったか。

「どこに行ってたの?」

主人格に言う時と同じように名前は明るい声で話しかけてきた。
……わかっているのかいないのか。
オレはその問いには答えず、壁に寄りかかっている名前の正面に立ち、顔の横に片手をついた。

「奴とは違うってわかってるのかねぇ。名前ちゃん」

奴とはもちろん、主人格サマのことだ。
手ぬるいやり方しかできない主人格とは違う。

危機感の欠片もないこいつに、どう分からせてやろうか……。

そう考えを巡らせていると、名前が不意に口を開いた。

「……わかってるよ。でも、マリクの怒りとか、憎しみの感情があなたなら、傍にいたい」

「フン。オレには理解できないねぇ」

怒り、憎しみ……それらは悪しき感情として疎まれ、人は離れていくものだ。
オレの主人格もオレを消し去ろうとした。
そんな奴の傍にいたいとは、笑わせる。

「それに、約束したから。マリクが闇の中にいるときは、わたしがその闇を照らすって」

「そりゃあまた、随分と馬鹿な約束をしたものだな」

オレは壁から手を離し、名前の首を捕捉した。
……奴との違いを分からせるのに手っ取り早い方法、それは死の恐怖を与えてやることだ。

「マ、リ……っ」

ゆっくりと手に力を込めると、次第に名前の顔が苦痛に歪みはじめた。
呼吸のできない苦しみに、名前の口が無意識に開くが、それでも、目には強い意志が感じられた。

……なかなかいい表情をするじゃねぇか。

こいつが足掻くさまを見るのも、面白いかもな。

何も出来ず、みっともなく足掻いたその果て……、
無力な己を呪い闇の中で絶望する名前の姿を脳裏に描く。


「楽しみだよ」

最高に。

オレは名前の首から手を離すと、その場を後にした。