「星を見に行きたいな」 ベランダに出ていた名前が夜の外気とともに部屋の中へ戻ってくると、 突然ボクにそう言った。 「星……? 見えるのかい?」 「うん。空気も澄んでて、よく見えるよ。だから、ね?」 名前は顔の前で手を合わせてボクを見た。 言葉の先は、その目が物語っている。 心の中で苦笑しつつ、ボクはソファから立ち上がった。 「じゃあ、星のよく見えるところに行こうか」 「ありがと、マリク!」 *** バイクを走らせて数十分。 「やっぱり、ここかな」 ボクはブレーキをかけて、バイクを停めた。 ここは以前、名前とピクニックに来たところだ。 空を見渡せる広い場所だし、今は夜だから人気も無い。 名前はバイクから降りると、小高い丘になっているところに行って寝転がった。 「広い場所一人占め! あ、マリクもいるから……二人占め?」 名前はそんなことを言って、星空を眺めた。 ボクもそんな名前の隣に座って、空を仰ぎ見る。 「流れ星見れるかな?」 しばらくして、名前は空を真剣に見つめながら、そう言った。 「流れ星か……。なにか願い事でもするつもりなの?」 「うん。これからもマリクと平和に暮らせるようにって」 名前は空からボクの方に視線を移して願い事を口にした。 「マリクは、なにをお願いするの?」 「ボクも、名前と同じことだよ」 そう言って名前の頭を撫でる。 名前はそれに嬉しそうに微笑むと、じゃあ絶対に流れ星見つけないと、と言ってまた空に目を向けた。 ボクは流れ星を探しているふりをして名前を横目で見た。 じーっと空を飽きもせず見つめている名前の姿がなんだか微笑ましくて思わず顔が緩む。 「名前」 それと同時に名前を愛おしく感じて、気付いたときには名前の名前を呼んでいた。 そして、名前の顔の横の地面に手をつくと、顔を近づける。 「マリク?」 名前は少し緊張気味にボクの名前を呼んだ。 先ほどまで星を映していた名前の目は、今はボクしか映っていない。 お互いの息がかかるくらい距離が近くなると、名前は恥ずかしげに目を閉じた。 それを合図に名前の唇に自分の唇を重ねて、離す。 キスのその一瞬でも、鼓動がドキドキとうるさい。 名前を前にすると余裕なんてすぐに奪われてしまう。 名前が目を開ける前に、ボクは名前から離れた。 ……こんなに緊張しているのが少し情けない。 はあ、と心の中でため息をついていると、手にあたたかい体温を感じた。 そちらに目を向けると、名前の手がボクの手の上に乗っていた。 ボクは名前の方を見ると、名前は上体を起こして、 最初は視線をあちこちに向けていたけど、最終的にボクの方を見た。 「マリク……えっと……、好き」 恥ずかしがりな名前は、ためらいがちにボクにそう告げた。 「……ボクも」 そっと名前を抱き寄せ、背中に腕を回す。 名前のことが好きだ。 言葉にはしないかわりに、ボクは名前を強く抱きしめた。